ハワース 秋のムーア(荒野)の光景 イギリスの風景

ハワース 秋のムーアの光景 イギリスの風景 生きている人はいつかは死に、
物事はすべて変わっていく。  それでも作品は残り、
誰かの心を揺さぶり続ける。  ウェスト・ヨークシャーの荒野には今日も風が吹く。ハワース 秋のムーアの光景 イギリスの風景 イギリス ウェスト・ヨークシャー ハワース

小説「嵐が丘」や「ジェーン・エア」、または映画「嵐が丘」や「ジェーン・エア」「ブロンテ姉妹」「トゥ・ウォーク・インビジブル」などでブロンテ姉妹の作品や生い立ち、人生などに触れた方なら、一度は足を運んでみたいと思うであろう「ハワース」は、ウェスト・ヨークシャーにある田舎の村。ブロンテ姉妹が住んでいたことで知られるこの村には世界中からブロンテ姉妹とその作品のファンが訪れる。

いまも石畳の道と往時の雰囲気を髣髴とさせる建物などが残され、ファンを喜ばせているのだが、そのハワースの周囲に広がる「ムーア」もまた人々を惹きつけている場所だ。

イングランドの中部からスコットランドにかけて点在する「ムーア」は、酸性土壌の上に背の低い草木が茂る土地のこと。映画「ブロンテ姉妹」や「トゥ・ウォーク・インビジブル」のシーンの中にも度々登場し、物語に重要な世界観を与えていたのを覚えておられる方も多いだろう。荒涼とした独特の雰囲気ながら、どこか切ないほどに美しい風景。思うように行かない人生と、先の見えない未来への不安や哀しみ、苦しみ、辛さ。そんなものを「母のような温かさ」で包み込んでくれるのではなく、むしろ冷徹に突き放すような、でもそれでいてどこか優しい面影を感じるような、そんな風が吹いている場所だ。

女性が小説を書くなど、あまり一般的ではなかった時代。ブロンテ姉妹の苦労や歯がゆさは想像以上のものであったろう。(実際、一番初めに世に出した作品はペンネームを使っている。)

三姉妹は幼い頃に母を結核で、さらにその数年後に二人の姉(11歳と10歳)を相次いでなくしているのだが、さらには、小さい頃は仲良く育ったといわれる弟(エミリーにとっては兄)ブランウェルも、数々のトラブルをおこし、酒や麻薬におぼれた荒んだ生活をしてなくなっている。

イギリス文学のみならず、世界の文学に大きな影響を与え、様々な人々の心の中に何かを想起させる作品を残したブロンテ姉妹。「ジェーン・エア」を書いた姉のシャーロット・ブロンテ、姉妹の中で一番長生きをした彼女も38歳で、「嵐が丘」を書いたエミリー・ブロンテは30歳で、「ワイルドフェル・ホールの住人」を書いたアン・ブロンテは29歳で、と当時の寿命を考えても、ブロンテ姉妹はいずれも早世している。

波乱に満ちた人生を生きたブロンテ姉妹たちの本当の心の中は知る由もないが、この荒野に立って風景を眺めていると、哀しみと諦念が入り混じったような独特の心持になるのである。