フェアリーメドウズの風景 パキスタンの風景
サンスクリット語で「裸の山」を意味する、世界で9番目に高い山「ナンガ・パルバット(標高8125メートル)」は、1895年にイギリス隊が登頂を試みて以来、オーストリアの天才クライマー「ヘルマン・ブール」が1953年7月にようやく登頂に成功するまで、悪天候や雪崩などで犠牲者が相次ぎ、「キラー・マウンテン」と恐れられた山だ。山の南側には世界最大の標高差(標高差4800メートル)を誇る「ルパール壁」と呼ばれる断崖絶壁があり、世界屈指の難易度を誇るその壁を、世界最高のクライマーの一人として知られるラインホルト・メスナーが弟のギュンター・メスナーと初登攀に成功しているが、その帰途にギュンターが雪崩に巻き込まれて帰らぬ人となっている。そんな険しいナンガ・パルバットを一望することのできる場所が「フェアリーメドウズ(おとぎ話の牧場の意)」と呼ばれる草原。ドイツ人の登山家が名付けたというその草原は、ナンガ・パルバットへのベースキャンプにほど近い場所にあるのだが、ナンガ・パルバットの厳しさの対極にあるような美しくて優しい風景が広がっている。ナンガ・パルバットの過酷な登山を終え、命ぎりぎりで下山してきたクライマーにとっては、それはまさにおとぎ話のような風景に見えたに違いない。