カスピ海と朝日 アゼルバイジャンの風景

カスピ海の日の出 アゼルバイジャンの風景朝のカスピ海の風景 アゼルバイジャンの風景

昔の人が地図も何も知らずにこの風景に巡り合ったなら、目の前の水を湛えたものを「海」と信じて疑わなかったでしょう。どこまでも続く水平線。右にも左にも陸地は見えません。いや、昔の人でなくとも何の前情報もなくこの地に連れてこられ、この景色を見せられたなら普通に「海」と思ってしまうに違いありません。「海から上る太陽はきれいだなぁ」と、さして疑うこともなくただただ感動することでしょう。ちょっと勘のいい人なら、「随分と凪いでいるな」と思うかもしれません。

面積37万1千平方キロメートル、南北に約1100キロメートル、東西に約200~420キロメートルほどの大きさを持つ世界最大の湖「カスピ海」。(日本の面積は約37万7千8百平方キロメートルなので日本の面積よりも少し小さい位)周囲をアゼルバイジャン、イラン、トルクメニスタン、カザフスタン、そしてロシア連邦(ダゲスタン共和国、カルムィク共和国、アストラハン州)に囲まれた湖です。元々は海であったところを大陸移動によって、周囲を陸地に囲まれて成立した湖とされています。今から約550万年ほど前の出来事です。

そうそう、冒頭のお話。いくら広大な風景でも、海かどうかを確かめたかったなら「水をちょっと舐めてみれば、明らかじゃないか」と思う方もいるかも知れません。しかし、このカスピ海の水はしょっぱいのです。塩分濃度は1パーセント少しといわれるので海水(塩分濃度3.5パーセント)ほどの塩辛さはありませんが、「塩湖」であるため塩分を含んでいるのです。これも、太古の昔は海であったことの名残です。塩分濃度が海水ほど濃くない理由としては、カスピ海の水は一度干上がったことで塩分は結晶化して岩塩となって沈殿・堆積したためといわれています。

ちなみに写真ではとても静かで波のない光景が広がっていますが、カスピ海は場所や天候によっては大きな波が打ち寄せることもあります。嵐の際にはカスピ海を航行していた貨物船が沈没したという事故も起きており、広大無辺の見た目にたがわず、時に見せる荒々しさにおいてもまさに「海」のような湖なのです。

余談ですが、カスピ海は湖であるか海であるかという議論が長年なされてきたものの、周辺国による協議の結果、2018年に「カスピ海は正式に海である」という沿岸5か国の協定が結ばれたそうです。沿岸国にとっては、大きさもその存在感も水産物など享受できる恵みも、「海」と変わらない、ということかと思いきや、
実際は「海」か「湖」かで、沿岸国が「カスピ海」において、権利を主張、行使できる範囲が大きく異なるためだとか。具体的には、国際法上、「海」と規定すると沿岸国は領海や排他的経済水域を設定できることになり、水産資源や石油や天然ガスなどの鉱物資源を含めた「領海」内で産出する「天然資源」は、領海を持つ国に帰属することになり、一方「湖」と規定するならば、それらは沿岸国の共有のものとなるから、ということなのだそうです。色々と複雑に各国の政治的、経済的な思惑が入り混じった結果であるということですね。